幻想小説でおすすめの一冊と言えばは本当の意味で怖がらせてくる『宵山万華鏡』
下校途中の帰り道、友達と別れた後ひとりで道を行く時になんとなく感じられる心細さ。
森見登美彦さんの『宵山万華鏡』はそのような、読み手が一度は感じたことがある不安の感情を上手く利用したホラー小説です。
森見登美彦さんは京都を舞台とした小説を数多く書いていらっしゃいますが、その中でもこの『宵山万華鏡』は非常に怖い短編小説集となっています。
この小説の持つ怖さと言うのは人を驚かすような怖さではなく、読者の五感を刺激してぞくぞくさせるような怖さを持つ小説なのです。
例えばこの短編集の最初にはいっている『宵山姉妹』では、バレエ教室に通う姉妹の妹が、好奇心旺盛な姉に連れられて祇園祭を回っていくうちに姉とはぐれて迷子になってしまうのですが、
その時の心理描写が上手く、また、そういった状況におちいった時の体の反応(はぐれたことに気付いた瞬間「彼女の心臓は痛いほど高鳴った」
通りがかる人が一瞥してくるだけで人さらいに思えてきて「恐ろしさに身体がカッと熱くなり、嫌な汗が背中を伝った」
「痛み続ける指先に血が滲み、ずきずきと脈打つように痛んだ」)も適切に描写されています。
それに加えて、祭りの音、屋台で売られている食べ物の匂いなども描写されることで読者は小説世界に入り込めるので、最後の場面でも本当の意味で怖いのです。
「怖い」ということと「驚く」ということとの区別が付かない「ホラー」と名付けられたエンターテイメント商品が跋扈するなか、こちらを本当の意味で怖がらせてくる『宵山万華鏡』ぜひ読んでみてください。
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